皆さん、こんにちは。
慶應義塾大学の松本です。
私の専門は中小企業金融で、長年ファクタリング市場の研究と教育に携わってきました。
近年、中小企業の資金調達手段としてファクタリングの存在感が急速に高まっています。
しかし、その市場が今どのような状況にあり、今後どこへ向かうのか、正確に理解されている方はまだ少ないのではないでしょうか。
そこで本記事では、2025年の市場動向を最新データと研究知見に基づき分析し、成長を牽引する要因を深掘りします。
さらに、中小企業政策審議会委員としての視点も交え、今後の展望と課題、そして中小企業経営者の皆さんがこの変化をどう捉え、活用すべきか、実践的な指針を示します。
一緒に未来の資金調達の形を学んでいきましょう。
目次
2025年ファクタリング市場の全体像:最新データから読み解く現状
市場規模の拡大と推移
まず、現在の市場がどれほどの大きさなのか、具体的なデータから見ていきましょう。
各種調査によると、2023年度の国内ファクタリング市場規模は約5.7兆円と推計されています。
これは、コロナ禍以前の水準を上回るものであり、市場が再び力強い成長軌道に戻ったことを示しています。
私の研究室での分析では、オンラインファクタリングの急速な普及などを背景に、この成長は続くと見ています。
2025年には、市場規模は6兆円を超える規模に達する可能性も十分に考えられます。
これは、ファクタリングがもはや一部の企業のための特殊な手段ではなく、中小企業金融の重要な柱の一つになりつつあることの証左と言えるでしょう。
誰が、なぜ利用しているのか?利用者の動向分析
では、実際にどのような企業がファクタリングを利用しているのでしょうか。
私が日本政策金融公庫に在籍していた頃の経験も踏まえると、特に建設業や運送業、ITサービス業など、売上が発生してから入金までの期間が長い業種で活用が進んでいます。
注目すべきは、その利用目的の変化です。
かつては「緊急避難的な資金繰り」というイメージが強かったかもしれません。
しかし現在では、計画的にキャッシュフローを改善し、事業拡大のチャンスを逃さないための「戦略的な財務手法」として活用する企業が着実に増えています。
これは非常にポジティブな変化だと私は捉えています。
ファクタリング市場が成長を続ける3つの主要因【専門家が徹底解説】
なぜこれほどまでに市場は成長しているのでしょうか。
その背景には、大きく3つの要因があります。
一つずつ、専門家の視点から丁寧に解説していきます。
【要因1】中小企業の資金調達ニーズの構造的変化
第一に、中小企業の資金調達に対する考え方そのものが大きく変化している点です。
長年、日本の資金調達は銀行融資が中心であり、その際には不動産などの担保や経営者個人の保証が求められるのが一般的でした。
しかし、経済の不確実性が増す現代において、より迅速で柔軟な資金調達へのニーズが高まっています。
担保や保証に依存せず、企業の「事業そのもの」、つまり「売掛債権」という資産を元に資金を調達できるファクタリングは、まさに時代の要請に応える手法なのです。
【要因2】テクノロジーがもたらした革命:オンラインファクタリングの普及
第二の要因は、フィンテック、つまり金融とテクノロジーの融合です。
AIによる審査の導入で、申し込みから入金までの時間が劇的に短縮されました。
かつては数週間かかっていた手続きが、今ではオンライン上で完結し、最短即日で資金化できるサービスも珍しくありません。
この利便性の向上は、これまで金融サービスが行き届きにくかった地方の中小企業にとっても、大きな福音となっています。
私が構築したオンライン教育システムでも全国から参加者が集まっていますが、それと同様に、テクノロジーが地理的な制約を取り払っているのです。
【要因3】制度的後押し:法改正と国の政策が与える影響
そして第三に、国による制度的な後押しが挙げられます。
特に大きな転換点となったのが、2020年4月に施行された改正民法です。
これにより、契約書に「債権の譲渡を禁止する」という特約があったとしても、原則としてその債権をファクタリングで譲渡できるようになりました。
これは、中小企業がファクタリングを利用する上での長年の障壁を取り払う、画期的な改正でした。
加えて、中小企業庁も売掛債権を活用した資金調達を積極的に推奨しています。
私が委員を務める審議会でも、中小企業の資金調達手段を多様化させることは重要なテーマであり、国策としてファクタリングの普及を後押ししているのです。
【松本教授の未来予測】2025年以降の市場を動かす新たなトレンド
ここからは、少し未来に目を向けてみましょう。
2025年以降、市場はどのように変化していくのでしょうか。
私は3つの大きなトレンドを予測しています。
トレンド1:サービスの専門化・多様化
今後は、あらゆる業種に対応する総合的なサービスだけでなく、特定の業界に特化したファクタリングが増えていくでしょう。
例えば、診療報酬債権を対象とする医療ファクタリングや、IT業界の多重下請け構造に対応したサービスなどです。
さらに、請求書が発行される前の「注文書」の段階で資金化する「将来債権ファクタリング」といった、新しい金融技術も登場してきています。
サービスの選択肢が広がることは、利用者にとって大きなメリットとなります。
トレンド2:大手金融機関の本格参入と市場再編
市場の成長性に着目し、これまで様子見だった大手銀行や金融機関が本格的に参入してくる可能性が高いでしょう。
競争が激化すれば、手数料の低下やサービスの質の向上が期待できます。
その一方で、競争力のない中小の専門業者が淘汰されるといった市場の再編も進むかもしれません。
利用者にとっては、より信頼性の高い業者を選びやすい環境が整っていくと考えられます。
トレンド3:データ活用とAIによる与信評価の進化
AIの進化は、与信評価、つまり「この企業はどれくらい信用できるか」を判断する方法を根本から変えるでしょう。
将来的には、企業の会計データや日々の取引データ、入出金の履歴などをAIがリアルタイムで分析し、より精緻な与信評価を行うようになります。
これにより、設立間もないスタートアップや、従来の審査では評価が難しかった新しいビジネスモデルを持つ企業にも、資金調達の道が大きく開かれる可能性があります。
市場の健全な発展に向けた課題と展望
もちろん、市場の成長には光だけでなく影の部分も存在します。
健全な発展のために、私たちが目を向けるべき課題についてもお話しします。
浮き彫りになる課題:法規制の不在と悪質業者の問題
現在の日本には、ファクタリング事業そのものを直接規制する法律がありません。
このため、残念ながらファクタリングを装い、法外な手数料を請求する貸金業登録のない悪質な業者(ヤミ金融)が存在するのも事実です。
金融庁も注意喚起を行っていますが、利用者自身が身を守る知識を持つことが不可欠です。
私が政策審議会で議論しているのも、こうした利用者保護のルール作りや、業界全体の健全性をいかに高めていくかという点です。
今後の展望:透明性の高い市場形成への道筋
今後は、利用者保護を目的とした法整備が少しずつ進んでいくと私は考えています。
また、業界団体による自主的なガイドラインの強化や、利用者が信頼できる業者を簡単に見つけられるような情報提供の仕組み作りも重要です。
こうした取り組みを通じて、誰もが安心して利用できる、透明性の高い市場を形成していくことが、今後の重要なテーマとなるでしょう。
【実践ガイド】中小企業経営者はこの市場動向をどう活かすべきか
さて、ここからは最も重要な実践的なお話です。
経営者の皆さんは、この市場の変化をどのように自社の経営に活かしていくべきでしょうか。
自社の資金調達ポートフォリオを見直す
まずは、自社の資金調達手段を一つに絞らず、複数組み合わせる「ポートフォリオ」という考え方を持つことが大切です。
銀行融資、制度融資、補助金・助成金、そしてファクタリング。
それぞれにメリット・デメリットがあります。
自社の事業フェーズや資金の使途に合わせて、これらを最適に組み合わせる戦略的な視点が、これからの経営者には求められます。
信頼できるファクタリング会社の選び方
悪質な業者に騙されないために、信頼できる会社を見極める目を養いましょう。
私がいつもアドバイスしているチェックリストを共有します。
- 契約内容の透明性:手数料やその他の費用について、事前に明確な説明があるか。
- 手数料体系の明確さ:手数料の計算根拠が分かりやすく、相場から逸脱していないか。
- 業界団体への加盟状況:信頼できる業界団体に加盟しているか。
- 担当者の対応:質問に対して丁寧に、誠実に回答してくれるか。
最低でもこの4点は必ず確認してください。
2026年の「手形廃止」に備える
政府は、2026年度末までに紙の約束手形を廃止する方針を明確にしています。
これまで手形割引で資金繰りを行ってきた企業にとっては、代替手段の確保が急務です。
その最も有力な選択肢がファクタリングです。
「まだ先の話」と考えるのではなく、今のうちから少額でもファクタリングを利用してみるなど、来るべき変化に備えて準備を始めておくことを強くお勧めします。
よくある質問(FAQ)
最後に、私の授業やセミナーでよくいただく質問にお答えします。
Q: 2025年のファクタリング市場規模は、どのくらいになると予測されますか?
A: 私の研究室の推計では、これまでの成長率や経済動向を考慮すると、2025年には6兆円を超える規模に達する可能性があります。特にオンラインファクタリングの伸びが市場全体を牽引すると見ています。
Q: ファクタリングを利用すると、取引先に知られて信用が落ちませんか?
A: 良い質問ですね。取引先に通知せずに行う「2社間ファクタリング」が現在の主流ですので、知られる心配はほとんどありません。また、国も推奨する健全な資金調達手法であり、計画的な利用はむしろ経営安定化の証と捉えるべきです。
Q: 手数料が高いと聞きますが、相場はどのくらいですか?
A: 手数料は取引形態や売掛先の信用力によって大きく変動します。一般的には、2社間ファクタリングで8%~18%、3社間ファクタリングで2%~9%程度が相場と言われています。オンライン化の進展で手数料は低下傾向にありますが、必ず複数の業者から見積もりを取ることが重要です。
Q: 今後、ファクタリングに関する法規制は強化されるのでしょうか?
A: はい、その可能性は高いと考えています。現在、金融庁や中小企業庁で利用者保護の観点から議論が進められています。悪質業者を排除し、市場を健全化させるためのルール作りが、2025年以降の重要なテーマとなるでしょう。
Q: 銀行融資とファクタリング、どちらを選ぶべきですか?
A: それは目的によります。低金利で長期の設備投資資金などが必要な場合は銀行融資が適しています。一方、急な運転資金が必要な場合や、迅速にキャッシュフローを改善したい場合にはファクタリングが有効です。両者の特性を理解し、賢く使い分けることが肝心です。
まとめ
本日は2025年のファクタリング市場について、その成長要因と今後の展望を多角的に分析しました。
市場はテクノロジーの進化と制度的後押しを受け、今後も拡大を続けるでしょう。
しかし、その一方で法整備などの課題も残されています。
中小企業経営者の皆さんにとって最も重要なのは、この変化を正しく理解し、自社の成長戦略の一環としてファクタリングを賢く活用することです。
私の信条は「実践なき理論は無意味」です。
本記事で得た知識を、ぜひ貴社の資金繰り改善と事業発展に役立ててください。
もし具体的なことでお困りでしたら、私のブログのコメント欄や公開セミナーで遠慮なくご質問ください。
皆さんの挑戦を心から応援しています。