皆さん、こんにちは。
慶應義塾大学の松本です。
第1講ではファクタリングの基本的な概念について学びましたが、いかがでしたでしょうか。
私の授業でも「仕組みが複雑でよく分からない」という質問をよくいただきます。
特に、2社間と3社間の違いは、多くの方がつまずくポイントです。
そこで今回は【第2講】として、ファクタリングの「仕組み」と「流れ」に焦点を当て、図解を豊富に使いながら、基礎から丁寧に解説していきます。
この記事を読み終える頃には、複雑に見えた仕組みが、驚くほどシンプルに理解できるようになっているはずです。
一緒に頑張りましょう。
目次
まずはおさらい:ファクタリングとは「債権の売買契約」です
第1講の重要ポイントを3分で復習
まず、最も大切な基礎から確認しましょう。
ファクタリングは、銀行からの融資(借入)とは全く異なります。
これは、皆さんの会社が保有している売掛債権(取引先から将来お金を受け取る権利)という「資産」を、ファクタリング会社に「売却」する取引です。
この「借金ではなく、資産の売買である」という本質を理解することが、仕組みを正しく把握するための、何よりも重要な第一歩となります。
なぜ融資ではなくファクタリングを選ぶのか?
私が以前、日本政策金融公庫に勤めていた頃、多くの経営者の方から資金繰りのご相談を受けました。
その中で、銀行融資ではなく、あえてファクタリングを選択されるケースには、いくつかの共通点がありました。
例えば、
「急な大口受注で、すぐに仕入れ資金が必要になった」
「決算が赤字で、銀行からの追加融資が難しい」
「今後の設備投資のために、銀行の融資枠は温存しておきたい」
といった状況です。
このように、ファクタリングの仕組みを学ぶことは、会社の未来を守るための選択肢を増やすことに直結するのです。
【図解】ファクタリングの登場人物と関係性を理解しよう
仕組みを理解する鍵は3つの登場人物
ファクタリングの仕組みは、一見すると複雑に思えるかもしれません。
しかし、登場人物を整理すれば、その関係性は非常にシンプルです。
- 利用者(貴社):資金調達をしたい会社
- ファクタリング会社:売掛債権を買い取る会社
- 売掛先(取引先):商品やサービスの提供を受け、支払い義務を負う会社
この3者が、どのように関わり合うのかを理解することが、全体像を掴む鍵となります。
お金の流れと権利の移動を図でイメージする
頭の中に、簡単な図を思い浮かべてみてください。
まず、貴社から売掛先へ、商品やサービスが提供されますね。
これにより、貴社は「売掛金(お金を受け取る権利)」を得ます。
次に、貴社はこの「権利」をファクタリング会社に売却します。
その対価として、ファクタリング会社から貴社へ「現金」が支払われます。
これが、ファクタリングの基本的なお金と権利の流れです。
【ステップ解説】図解で見るファクタリングの基本的な流れ
では、具体的な手続きの流れを4つのステップに分けて見ていきましょう。
ステップ1:ファクタリング会社への申込み・相談
まずは、ファクタリング会社に問い合わせることから始まります。
この段階で、売却したい売掛債権の金額や、売掛先の情報などを伝えて相談します。
教育者としての視点からアドバイスするならば、この最初の相談で「手数料の見積もり」や「契約内容の詳細」について、遠慮なく質問することが大切です。
複数の会社に相談し、比較検討することをお勧めします。
ステップ2:必要書類の提出と審査
次に、ファクタリング会社による審査が行われます。
ここで重要なポイントは、審査で最も重視されるのは、皆さんの会社の信用力ではなく「売掛先の信用力」であるという点です。
一般的に、以下のような書類の提出を求められます。
- 決算書(または確定申告書)
- 売却したい売掛債権の請求書や契約書
- 会社の通帳のコピー(直近数ヶ月分)
事前に準備しておくと、手続きがスムーズに進みますよ。
ステップ3:契約の締結
審査に通ると、いよいよ契約です。
中小企業診断士としての実践的な視点から申し上げると、契約書は隅々まで確認してください。
特に重要なのが、「手数料」と「償還請求権の有無」です。
日本のファクタリングでは、売掛先が倒産しても返済義務のない「償還請求権なし(ノンリコース)」契約が原則です。
この点は、必ず確認しましょう。
ステップ4:売掛債権の譲渡と買取代金の入金
契約が完了すると、売掛債権の権利が正式にファクタリング会社へ移転します。
そして、契約時に定められた手数料が差し引かれた買取代金が、皆さんの会社の口座へ入金されます。
この入金までのスピード感が、ファクタリングが持つ大きなメリットの一つと言えるでしょう。
【完全図解】2社間と3社間ファクタリングの仕組みの違いを徹底比較
さて、ここからが今回の講義で最も重要なポイントです。
ファクタリングには、大きく分けて「2社間」と「3社間」の2つの仕組みがあります。
2社間ファクタリングの仕組みと流れ
これは、その名の通り「利用者(貴社)」と「ファクタリング会社」の2社だけで手続きが完結する仕組みです。
【2社間の流れ】
- 貴社がファクタリング会社に売掛債権を売却し、資金を受け取る。
- 期日になったら、売掛先から貴社へ通常通り売掛金が支払われる。
- 貴社は、受け取った売掛金をファクタリング会社へ送金する。
最大のメリットは、売掛先にファクタリングの利用を知られずに資金調達できる点です。
一方で、ファクタリング会社から見ると、貴社から確実に資金を回収できるかというリスクがあるため、手数料は割高になる傾向にあります。
3社間ファクタリングの仕組みと流れ
こちらは、「利用者(貴社)」「ファクタリング会社」「売掛先」の3社が関与する仕組みです。
【3社間の流れ】
- 貴社がファクタリング会社に申し込み、売掛先に債権譲渡の承諾を得る。
- 貴社がファクタリング会社に売掛債権を売却し、資金を受け取る。
- 期日になったら、売掛先からファクタリング会社へ直接売掛金が支払われる。
売掛先から直接ファクタリング会社へ支払いが行われるため、ファクタリング会社の回収リスクが低くなります。
その結果、手数料が安くなるのが最大のメリットです。
【松本教授の視点】どちらを選ぶべき?判断基準をケース別に解説
では、皆さんの会社はどちらを選ぶべきでしょうか。
これは、状況によって最適解が異なります。
政策金融公庫での相談対応経験から、いくつかの判断基準を提示しましょう。
- 売掛先との関係性を最優先したい場合 → 2社間ファクタリング
- 取引先に知られずに、今後の取引に影響を与えることなく資金調達が可能です。
- 手数料を少しでも抑えたい場合 → 3社間ファクタリング
- 売掛先の協力が得られるのであれば、コストを大幅に削減できます。
- とにかくスピードを重視する場合 → 2社間ファクタリング
- 最短即日で資金化できるため、緊急の資金需要に対応できます。
自社の状況と優先順位を明確にすることが、賢い選択に繋がります。
よくある質問(FAQ)
私の授業でもよく出る質問に、Q&A形式でお答えしますね。
Q: ファクタリングの仕組みは合法なのでしょうか?
A: はい、完全に合法です。
ファクタリングは民法で定められた「債権譲渡」という正規の契約に基づいています。
私が専門とする中小企業金融論においても、有効な資金調達手法として確立されています。
ただし、法外な手数料を請求する悪徳業者には注意が必要です。
Q: 売掛先にファクタリングの利用を知られてしまうことはありますか?
A: 2社間ファクタリングの場合、原則として売掛先に知られることはありません。
ただし、契約内容によっては債権譲渡登記が必要となり、その場合は第三者が登記情報を確認することが可能です。
3社間ファクタリングでは、売掛先の承諾が必須なため、必ず知られることになります。
Q: 審査ではどのような点が重視されますか?
A: 最も重視されるのは、貴社(利用者)の経営状況よりも、売掛先の支払い能力と信用力です。
そのため、赤字決算や税金滞納がある場合でも利用できる可能性があります。
これは融資との大きな違いですね。
Q: 申し込みから入金まで、どのくらいの時間がかかりますか?
A: 2社間ファクタリングであれば最短即日、3社間ファクタリングでは売掛先の承諾が必要なため数日~1週間程度が一般的です。
緊急の資金需要には2社間が適していますが、その分手数料が高くなる傾向にあることを理解しておきましょう。
Q: もし売掛先が倒産した場合、返済義務はありますか?
A: 「償還請求権なし(ノンリコース)」の契約であれば、返済義務はありません。
売掛金の回収リスクはファクタリング会社が負います。
これこそがファクタリングの大きなメリットの一つです。
契約時にはこの点を必ず確認してください。
まとめ
皆さん、お疲れ様でした。
今回はファクタリングの「仕組み」と「流れ」を図解で学びました。
重要なポイントを復習しましょう。
- ファクタリングは融資ではなく「債権の売買」である。
- 登場人物は「利用者」「ファクタリング会社」「売掛先」の3者。
- 「2社間」はスピーディで売掛先に知られないが、手数料は割高。
- 「3社間」は手数料が安いが、売掛先の承諾が必要で時間がかかる。
この仕組みを正しく理解すれば、自社の状況に最適な資金調達方法を選択する力が身につきます。
基礎を固めれば応用は難しくありません。
次回【第3講】では、皆さんが最も気になるであろう「手数料」について、その相場や決まり方を詳しく解説していきます。
ぜひ、また一緒に学びましょう。